2021年10月7日

 今日は秋の虫の話をします。秋に鳴く虫の代表と言えばスズムシですね。日本では、主に東北から九州までに分布する、バッタ目コオロギ科の昆虫です。7月下旬から羽化して、鳴き声が聴かれるのは9月いっぱいまで。10月初旬にはほぼすべての野生個体が死んでしまうようです。今外で虫の声が聞こえるとしたら、スズムシではなくコオロギなどなのかもしれませんね。スズムシの鳴き声は2枚の羽を同時に左右へ高速で動かし、こすれあうことによってでる音です。音を出すのはオスのスズムシだけで、その理由は求愛のため。より遠くのメスにまで自分の音を伝えるため、2枚の前羽を立てて泣きます。こうすることで音が羽に跳ね返ってより遠くまで伝わります。秋になると幾千のスズムシのプロポーズが夜に響き渡っているわけですね。

 飼育が非常に簡単として知られ、学校の教室の後ろにナスと一緒に水槽で飼っているイメージもありますね。ナスやキュウリはもちろん、カボチャやサツマイモに至るまで食べ、鰹節などタンパク質の餌もたべる雑食性です。飼育の際ナスだけ与えると、成長にタンパク質がたりなくなるので、市販のスズムシのえさもあげる必要があります。オスとメスは見分けやすくて、オスが体が太く大きく、メスが小さく産卵管がおしりについています。

 スズムシの鳴き声は「むしのこえ」という童謡に歌われるように、リンリンと聞きなすのが一般的です。同じく「むしのこえ」でチンチロリンと歌われるのがマツムシですね。実際にはチンチロリンという穏やかなものではく、「ぴりりり」という高音かつ大音量で寝ているとうるさく感じるようです。マツムシは、バッタ目コオロギ科の昆虫で、スズムシに似ていますが、体長がより大型です。スズムシと違いマツムシと呼ばれる昆虫は沖縄にもいるみたいです。スズムシと比べ開けた場所に生息しているため開発や踏み荒らしなどの被害を受けやすく、飼育も難しいことから生息域は減少していて、都市部でその鳴き声を耳にする機会は少ないそうです。童謡の「むしのこえ」でマツムシの名前は知っていても、実際の鳴き声を聴いたことがある人はほとんどいないのではないかと思います。ホームセンター、昆虫専門店等の店頭やインターネット上で時折販売されている個体もスズムシの2倍〜4倍の値が付いており、国産の鳴く虫の中で最も高価な部類に入るとか。

 古くは、マツムシをスズムシと、スズムシをマツムシと呼んでいたらしい。

 秋の虫といえば、あとはコオロギでしょうか。バッタ目コオロギ科の昆虫です。日本ではエンマコオロギが一般的です。体長はマツムシよりも大きく、頭部も大きいのが特徴。複眼の周りに黒い模様があり、その上には眉のように淡褐色の帯があり、この模様が閻魔の憤怒面を思わせることからこの和名があるそうです。「むしのこえ」ではキリキリとなく様子が歌われていますが、よく見かけるエンマコオロギの鳴き声ではないそうです。夏の暑い時期には夜しか鳴かないが、秋が深まり気温が下がると昼に鳴くようになります。

 キリギリスも秋の鳴く虫です。バッタ目キリギリス科の昆虫で、バッタに分類されるので体長はコオロギよりもさらに大きいです。「アリとキリギリス」で有名な虫ですね。アリとキリギリスはイソップ童話の一つです。夏の間、食べ物を一生懸命に運ぶアリに対して、キリギリスは、バイオリンを弾き歌って過ごしています。やがて冬がきて、キリギリスは食べ物を探すが見つからず、アリたちに食べ物を分けてもらおうとしますが、結末は実は3つあるのです。1つは、アリは「夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだい?」と食べ物を分けることを拒否し、キリギリスは飢え死んでしまう結末。2つめは、アリは「どうぞ食べてください。その代わり、キリギリスさんのバイオリンを聞かせてください」と言ってくれ、キリギリスは涙を流して喜び、張り切ってバイオリンを弾き、そして次の年の夏からは、真面目に働くようになった結末。3つめは、アリは「夏も歌って過ごしていたのだから、冬も歌えばいいんじゃない?」と言い、キリギリスは「もう歌うべき歌はすべて歌った。君は僕の亡骸を食べて生き延びればいいよ」と答え、後先を考えずに遊んでいるだけに見えたキリギリスでしたが、実はすべて見据えたうえで、生きている時間を命がけで楽しんでいたという結末。結末によって、「困った人を助ける優しい人になるべきである」、「後先を考えずに過ごすと後で困る」、「幸せの尺度は人によって違う」のような教訓を考えさせられます。

 さて、秋の虫はそろそろいなくなってしまう時期です。もし、まだ秋の虫の音が聞こえているのなら、余韻に浸りながら過ごしてみてはいかがでしょうか。