2021/10/8

 今年のノーベル物理学賞は真鍋淑郎さんが受賞することが決まりました。真鍋さんは今90歳。現在アメリカ国籍を取得し、アメリカのプリンストン大学で研究をしているようですが、日本生まれのノーベル賞受賞者としては28人目、物理学賞では12人目です。

 真鍋さんは、いまから50年以上前に「二酸化炭素が増えれば地球の気温が上昇し、地球温暖化につながる」ということを世界に先駆けて発表した方であるそうです。ノーベルの選考委員会は、真鍋さんの受賞理由について「現代の気候の研究の基礎となった」としています。真鍋さんが作った気候の予測モデルは非常にシンプルで、地表面が太陽から受け取るエネルギーから、宇宙に逃げていくエネルギーを差し引いた「放射収支」と、空気や水蒸気が互いにどう影響し合うか、世界で初めて解明したとされます。

 1960年当時、真鍋さんはアメリカの気象局で、温室効果ガスが増えたら気候がどうなるかという温暖化問題に取り組んでいたといいます。地球の気候は、大気と海、そして陸地の間で熱や水蒸気がやりとりされ、次々と変化が起きる非常に複雑な現象ですが、真鍋さんは、複雑な関係を数式化して、世界で初めて大型コンピュータを使って予測したのです。1967年に発表した論文では、二酸化炭素の濃度が2倍になると、地球の平均気温がおよそ2.3度上がるとしています。

 授賞式は12月10日にスウェーデンストックホルムで開かれます。賞金約1億2700万円は物理学賞を受賞した3名で分けられます。

 日本人の受賞は2019年の吉野彰さんの化学賞受賞以来2年ぶりです。吉野さんは、リチウムイオンバッテリーの開発で受賞しました。

 ノーベル賞とは、ダイナマイトの発明者として知られるアルフレッド・ノーベルの遺言に従って1901年から始まった世界的な賞です。物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学の「5分野+1分野」で顕著な功績を残した人物に贈られます。ノーベル経済学賞だけは、ノーベルの遺言にはなく、スウェーデン国立銀行の設立300周年祝賀の一環として、ノーベルの死後70年後にあたる1968年に設立されたものです。賞設立の遺言を残したアルフレッド・ノーベルスウェーデンの発明家・企業家であり、ダイナマイトをはじめとするさまざまな爆薬の開発・生産によって巨万の富を築いています。爆薬や兵器を元に富を築いたノーベルには一部から批判の声が上がっていて、その一部から「死の商人」と呼ばれたことは有名です。ノーベル本人は死後自分がどのように記憶されるかを考えるようになり、遺言で、「遺産は基金によって管理され、毎年その利子によって前年に人類に貢献をした人々に分配することとする」と残しました。ノーベルの意思を継ぎ、1897年にノルウェー・ノーベル委員会が設立されました。

 選考は「物理学賞」「化学賞」「経済学賞」の3部門についてはスウェーデン王立科学アカデミーが、「生理学・医学賞」はスウェーデンカロリンスカ研究所が、「平和賞」はノルウェー・ノーベル委員会が、「文学賞」はスウェーデン・アカデミーがそれぞれ行います。授賞式は、ノーベルの命日である12月10日に、「平和賞」を除く5部門はストックホルムのコンサートホール、「平和賞」はノルウェーオスロの市庁舎で行われ、受賞者には、賞金の小切手、賞状、メダルがそれぞれ贈られます。授賞式終了後、平和賞以外はストックホルム市庁舎にて、スウェーデン王室および約1,300人のゲストが参加する晩餐会が行われるそうです。受賞時に渡される金メダルには表面にアルフレッド・ノーベルの肖像と生没年が記されています。

 日本人として初めて授賞したのは、物理学賞を受賞した湯川秀樹です。原子核内部において、中間子の存在を予言したことが、のちに理論的に証明され、これにより1949年、日本ノーベル物理学賞を受賞しました。未だ戦後占領期にあった日本で日本人が世界的権威のある賞を受賞したことは国民に大いに自信を与えたといいます。

 日本人の受賞で多いのは、物理学賞と化学賞の9名です。ノーベル賞の歴史の中で、日本は非欧米諸国の中で最も多いようですが、女性や団体および複数回にわたってノーベル賞を受賞した人はいません。

 ほかの受賞者としては、文学賞川端康成や、平和賞の佐藤栄作、医学賞の山中伸弥さんなどがいますね。皆さん人類のためになる研究をした方や、歴史的な功績を残した方です。2001年にタンパク質の研究で化学賞を受賞した田中耕一さんは現役サラリーマンでの受賞で脚光を浴びました、あきらめない研究や失敗から得た成功は多くの人を勇気づけた教訓を生んでいます。

 一方、今回受賞した真鍋さんを含め、アメリカ国籍を取得しアメリカで研究している方が5名います。日本出身で外国国籍の方がノーベル賞を受賞するたびに優秀な方が日本で研究をできる環境が整わないのか、と話題になりますが、社会保障費が増大し科学方面の予算が年々削られる日本では難しいのでしょうか。