【今日の話題】2021年10月5日

 10月とは言え、日が差せばまだ暑い日もあるかと思います。「残暑」は8月いっぱい、もしくは9月の初めごろまでとされているようですので、10月初めの暑さは残暑の残暑でしょうか。

 「暑さ寒さも彼岸まで」という言葉があります。「冬の寒さ(余寒(よかん))は春分頃まで、夏の暑さ(残暑)は秋分頃までには和らぎ、凌ぎやすくなる」という意味の、慣用句です。彼岸(ひがん)とは、春分秋分を中日(ちゅうにち)とし、前後各3日を合わせた各7日間で、1年で計14日間あります。最初の日を「彼岸の入り」、最後の日を「彼岸明け」といいます。2021年の秋分の日は9月23日。今年の彼岸の入りは19日、彼岸の開けるのは25日ということになります。この期間に行う仏事を彼岸会と呼びます。

 彼岸の語源は古代インドなどで使われたサンスクリット語の「パーラム」という言葉の意訳で、仏教用語の「波羅蜜」(パーラミター)に由来します。日本では「至彼岸」と訳され、大乗仏教における悟りの境地、すなわち彼岸へと至ることを表します。仏教の世界では、先祖のいる悟りの世界を彼岸、今私たちが生きている世界を「此岸(しがん)」と表すそうで、秋分の日は昼と夜の長さがほぼ等しくになることから、この日は彼岸と此(し)岸(がん)の距離が最も近い日と考えられ、先祖への感謝の気持ちを表しやすい日だと考えられるようになりました。それがお彼岸の由来といわれます。お彼岸である秋分の日前後は、先祖を敬い、感謝を伝えることができる日として、お墓参りに行ったり仏壇に手を合わせたりするなど、先祖の供養をする日となりました。

 気象の話に戻ると、実際、気象庁などの観測データによれば、概ねこの慣用句のとおりであることは観測出来ているらしいです。ただし、北日本と南日本では比較的大きな差があり、年によっては10月に入っても夏日・熱帯夜になることもあります。9月の秋の彼岸は概ね5月下旬から6月上旬(南日本は6月上旬から下旬)の気温とほぼ同じであり、初夏の平均気温と等しくなるようです。

 秋は春と同じように大陸から高気圧が移動してくるため、低気圧や気圧の谷と高気圧が交互に通過します。この秋の「移動性高気圧」は乾燥した澄んだ空気を運んでくるため、快晴状態となることが多く「天(てん)高く(たかく)馬(うま)肥ゆる(こゆる)秋(あき)」などと言われています。

 秋の快適な気候を表す「天高く馬肥ゆる秋」という言葉は、元は中国の故事から来たものです。秋は空が澄み渡って高く晴れ、馬は肥えてたくましくなる、秋の好時節をいう語。ということですが、元のは、秋になるとよく肥えた馬に乗って騎馬民族が攻めてくるから気をつけろ、という警戒の意味を込めた言葉だったとか。時代が進み馬に乗った敵が攻め込んでくることがなくなったため、元の意味が薄れ現在の意味合いで使われるようになったと言います。

 「天高く馬肥ゆる秋」とは別に、秋の天気は「女心と秋の空」などとも言われます。秋の移動性高気圧の動きは速く、気持ちのよい晴れも1~2日程しか続かないことが多いため、その様子を移りげな女の心模様と重ねた言葉です。また同じ意味で、「男心と秋の空」という言葉もあります。現在では「女心と秋の空」の方が広く定着しているような気がしますが、もともとは「男心と秋の空」がことわざとして先に生まれています。「男心と秋の空」のことわざができたのは江戸時代。当時は、男性の浮気に寛大だったこともあり、移り気なのはもっぱら男性だったとか。その後、日本でも女性の地位向上で恋愛の価値観も変わり、西洋文化の影響で女性が素直に意思表示できるようになったこともあって、大正時代ごろから「女心と秋の空」とも言われるようになります。愛情に限らず、喜怒哀楽の感情の起伏が激しいことや物事に対して移り気なことを示しており、男心とは少しニュアンスが違うようです。しかし、どちらを使っても間違いではありません。

 秋には風情のあることわざや慣用句がたくさんありますね。1年で最も過ごしやすい気候であることの裏付けであると思います。とはいえ、ことわざのとおり、変わりやすい天気も続くので温度の変化に気をつけましょう。